TW1・TW2・TW3ののんびり日記。
なりきり・軍事ネタ含むので苦手な方は回れ右をお勧めします。
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雪が、降る。
「くりすます、か」
深々と降る雪を眺めてなみが呟く。
着流しの上から丹色の羽織をかけ、白銀の髪を無造作に流していた。
「今年も終わっちゃうんだね」
「そうだな」
相槌を打ちシラネがその隣に立つ。
シルバーのプレートブレスレットを着けた手に、1枚の紙を持っている。
「卒業おめでとう」
「……え?」
唐突な言葉に顔を上げ、相手を見た。
「そつ、ぎょう?」
「学園からの通達を見ていないのか?」
すと差し出された紙。
「卒業証書についての書類が来ているぞ」
褐返の瞳が文字を追う。
『銀誓館学園卒業証書』の文字は、彼にとって縁がないものと思い込んでいた。
「卒業って、……私、卒業? 何から?」
戸惑い鉄紺を見た。
「私は、」
「卒業おめでとう」
同じ言葉を口にする。
「なみ。すべてはいずれ終わる。お前にとっての『終わり』が卒業なんだよ」
「……おわる?」
幼子のように反芻し、ふるりと首を振った。
「卒業したら、どうなるの?」
「どうにもならんさ。ただ終わりを迎えるだけでな」
「だから、……終わるって何?」
今にも泣き出しそうに声が震えている。
その頭を撫でてやり、
「お前はどうしたい?」
「どう、って……」
「すべてを忘れるか、すべてを思うか」
夜明け間近の空に似た瞳がまっすぐに見つめる。
「俺は忘れなかった」
それは、ランドアースでの記憶。
たくさんの。
「お前はどうする? 忘れるなら楽になる。忘れないなら、辛いぞ」
「い……嫌だ。忘れたくない」
ぎゅっと目をつぶり強く頭を振る。
「だって、私はたくさんのものをもらったのに、それを忘れるなんてできないよ」
「それなら、苦しみながら生きるといい」
優しく肩を抱き寄せ、いとおしむ声が言った。
「思い出を集めればいずれそれは苦しみとなる。だがそれは、得ておらんことよりも幸福なことだ」
「分からないよ。苦しいことが幸せなんて」
「ならばお前は、どれだけの幸福を得てきた?」
「……たくさん」
「その重さがお前を苦しめる。お前はそれを受け入れ、それを昇華せねばならん」
閉じた目から涙がこぼれた。
「つらいよ」
「ああ」
「でもうれしいんだ」
「そうか」
「私には何もないと思っていた」
「でも違ったか?」
「たくさんのものがあったんだ」
「そうだな」
「だから、」
シラネの羽織る振袖を掴む。
「忘れない。うれしいことも、楽しいことも、悲しいこと、苦しいこと、全部忘れない」
ぽろぽろと褐返の瞳から涙を落としながらも、まっすぐに言う。
その涙を指先でぬぐってやり、くしゃりと頭を撫でた。
「卒業おめでとう」
「……ありがとう」
「不愉快だわ」
無感情に口にする。
「だが、あれが自分で選んだことだぞ」
「故に許しがたいのです」
紺瑠璃の瞳を瞬き、
「あれは私だけのものだったのに、人間などに奪われるとは」
「言うな、蟲毒よ。それではお前も『人間』のようだぞ?」
鉄紺が笑い、紺瑠璃――ゆきが目を見開いた。
「お前たちはよう頑張ったよ。呪詛をまとい呪詛となり、そうして生き長らえてきた。でもな、所詮人蟲の出来損ない。ならばお前たちもまた人間だ」
「……世迷を」
「とうに気付いておったのだろ?」
小柄な少女の頭に手をぽんとやる。
「お前となみは違う。なみはお前ではない。お前の思うとおりになる蟲はどこにもいない」
「あれは私の……」
「あれの好むものを嫌うお前が?」
嘲笑に似た笑みを浮かべ、
「ま、お前が認めんならそれでも構わん。だがな、世にこう言葉がある。『女は嫉妬深いもの』とな」
「……鉄紺!」
「感情のある蟲など聞いたことがないぞ俺は」
くしゃくしゃと頭を撫でてやる。
「年頃にはちと疎いか。どれ、そのうちに俺が仕立ててやろうかね。任せろ、女の扱いは得意だ」
「何を馬鹿な、」
「お前も俺の妹だからな」
手の甲で頬を撫でてやると、ゆきはふいと顔を逸らした。
「……嫌な方」
「残念だったな、お前の『初恋』を奪られて」
「あれのことなどもう知りません。好きにすればいいのだわ」
言う声には拗ねた色が含まれている。
だが、ふと彼の羽織る振袖に手をかけた。
「これで終わりにします」
「ん?」
「何もかもを。もう、黒燐蟲をまとうこともないでしょう」
さわりと呪詛の蟲がざわめく。
「力を失う必要はないぞ」
「ええ。でも――」
そっと目を伏せる。
「もうこの力に頼る必要はないのですから」
ふっと笑みを浮かべた。
「お前にも。卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
「くりすます、か」
深々と降る雪を眺めてなみが呟く。
着流しの上から丹色の羽織をかけ、白銀の髪を無造作に流していた。
「今年も終わっちゃうんだね」
「そうだな」
相槌を打ちシラネがその隣に立つ。
シルバーのプレートブレスレットを着けた手に、1枚の紙を持っている。
「卒業おめでとう」
「……え?」
唐突な言葉に顔を上げ、相手を見た。
「そつ、ぎょう?」
「学園からの通達を見ていないのか?」
すと差し出された紙。
「卒業証書についての書類が来ているぞ」
褐返の瞳が文字を追う。
『銀誓館学園卒業証書』の文字は、彼にとって縁がないものと思い込んでいた。
「卒業って、……私、卒業? 何から?」
戸惑い鉄紺を見た。
「私は、」
「卒業おめでとう」
同じ言葉を口にする。
「なみ。すべてはいずれ終わる。お前にとっての『終わり』が卒業なんだよ」
「……おわる?」
幼子のように反芻し、ふるりと首を振った。
「卒業したら、どうなるの?」
「どうにもならんさ。ただ終わりを迎えるだけでな」
「だから、……終わるって何?」
今にも泣き出しそうに声が震えている。
その頭を撫でてやり、
「お前はどうしたい?」
「どう、って……」
「すべてを忘れるか、すべてを思うか」
夜明け間近の空に似た瞳がまっすぐに見つめる。
「俺は忘れなかった」
それは、ランドアースでの記憶。
たくさんの。
「お前はどうする? 忘れるなら楽になる。忘れないなら、辛いぞ」
「い……嫌だ。忘れたくない」
ぎゅっと目をつぶり強く頭を振る。
「だって、私はたくさんのものをもらったのに、それを忘れるなんてできないよ」
「それなら、苦しみながら生きるといい」
優しく肩を抱き寄せ、いとおしむ声が言った。
「思い出を集めればいずれそれは苦しみとなる。だがそれは、得ておらんことよりも幸福なことだ」
「分からないよ。苦しいことが幸せなんて」
「ならばお前は、どれだけの幸福を得てきた?」
「……たくさん」
「その重さがお前を苦しめる。お前はそれを受け入れ、それを昇華せねばならん」
閉じた目から涙がこぼれた。
「つらいよ」
「ああ」
「でもうれしいんだ」
「そうか」
「私には何もないと思っていた」
「でも違ったか?」
「たくさんのものがあったんだ」
「そうだな」
「だから、」
シラネの羽織る振袖を掴む。
「忘れない。うれしいことも、楽しいことも、悲しいこと、苦しいこと、全部忘れない」
ぽろぽろと褐返の瞳から涙を落としながらも、まっすぐに言う。
その涙を指先でぬぐってやり、くしゃりと頭を撫でた。
「卒業おめでとう」
「……ありがとう」
「不愉快だわ」
無感情に口にする。
「だが、あれが自分で選んだことだぞ」
「故に許しがたいのです」
紺瑠璃の瞳を瞬き、
「あれは私だけのものだったのに、人間などに奪われるとは」
「言うな、蟲毒よ。それではお前も『人間』のようだぞ?」
鉄紺が笑い、紺瑠璃――ゆきが目を見開いた。
「お前たちはよう頑張ったよ。呪詛をまとい呪詛となり、そうして生き長らえてきた。でもな、所詮人蟲の出来損ない。ならばお前たちもまた人間だ」
「……世迷を」
「とうに気付いておったのだろ?」
小柄な少女の頭に手をぽんとやる。
「お前となみは違う。なみはお前ではない。お前の思うとおりになる蟲はどこにもいない」
「あれは私の……」
「あれの好むものを嫌うお前が?」
嘲笑に似た笑みを浮かべ、
「ま、お前が認めんならそれでも構わん。だがな、世にこう言葉がある。『女は嫉妬深いもの』とな」
「……鉄紺!」
「感情のある蟲など聞いたことがないぞ俺は」
くしゃくしゃと頭を撫でてやる。
「年頃にはちと疎いか。どれ、そのうちに俺が仕立ててやろうかね。任せろ、女の扱いは得意だ」
「何を馬鹿な、」
「お前も俺の妹だからな」
手の甲で頬を撫でてやると、ゆきはふいと顔を逸らした。
「……嫌な方」
「残念だったな、お前の『初恋』を奪られて」
「あれのことなどもう知りません。好きにすればいいのだわ」
言う声には拗ねた色が含まれている。
だが、ふと彼の羽織る振袖に手をかけた。
「これで終わりにします」
「ん?」
「何もかもを。もう、黒燐蟲をまとうこともないでしょう」
さわりと呪詛の蟲がざわめく。
「力を失う必要はないぞ」
「ええ。でも――」
そっと目を伏せる。
「もうこの力に頼る必要はないのですから」
ふっと笑みを浮かべた。
「お前にも。卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
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